キミは聞こえる
≪それは万に一つもないかな。力を使うときは充分注意を払っているし、さっきも言ったけど、のぞくだけの意識はあくまでものぞくだけ、心は――というか、力は、かな? それを敏感に察知しているから、不用意にシャッターが開くことはまずない≫

≪………それ、もしかして私に喧嘩売ってる?≫

「1時間目、一学年はすべてHRに当てられている。自分の順位を聞いて期末試験に向けた目標を各自決めるよう」
 
 ステージのマイクが切れると、ちょうどよくチャイムがスピーカーから流れてきた。

 出口に近いクラスから、列を崩しながらぞろぞろと流れ出ていく。

 ふと視線を感じて目を転じれば、桐野が険のある眼差しで、佳乃がどこか不安げな様子で、それぞれ泉を見ていた。

 それらに応えようと言葉を探し始めたとき、隣から嫌な気配が遠のいた。

 はっと首を捻る。設楽がいない。

 設楽にはまだ訊きたいことがあった。
 視線を巡らせ、見つけた後ろ姿に、泉は慌てて意識を向ける。

≪じゃ、じゃあ、無意識にあんたに声を送っちゃった私はなんなの。どうすればいいの?≫

 設楽に懇願するのは矜持が許さず、とてつもない屈辱であったけれど、あいにくといまはそんな体面に縛られている場合ではなかった。

 時間を作って、改めて設楽に問いかける、その間を待つだけの余裕がないと、泉は迫り来る得体の知れない恐怖にすがるものを探さずにはいられなかった。

 肩越しに振り向いた設楽の顔は思いがけず真剣で、流れる人込みの中、泉と設楽と視線はぶれることなくぴたりと重なる。

≪俺にも詳しいことはわからない。気を張って意識していれば防げるのかどうか……俺には経験がないから。ただ、心のシャッターについては俺も代谷サンも変わらないはずだ。抜けてるなんて言ったけど、見た目の印象が読心に関係するとは思えない≫

≪じゃあ、なにか意味がある?≫

≪さぁ………覚醒したばっかりで身体が力に追い着いていっていないのかも知れない。

 とにかく、注意した方がいいよ≫

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