キミは聞こえる
 いま、確かに千紗は佳乃を呼んだ。

 自分たちの輪の中に、決して佳乃を招き入れようとしなかった千紗が、まさか自分から佳乃の名を呼ぶなんて。

 どういう心境の変化だろう。

「……いや、どこも悪くはないけど……ただ」
「ただ!?」
「今日は、最悪なことに設楽って人が隣だったから………」

 ……は? と、三人は一様にぽかんとして泉を見つめた。

「さ、最悪って、またどうして」
「設楽が隣だったら、ふつう女子は大はしゃぎで喜ぶところじゃない?」

 ねぇ、と顔を見合わせる千紗、響子。そこにはなんとしっかり佳乃も加わっている。
 ほんとうに、どうしたことだろうか。

 以前、教室で泉を"すごい"と言った彼女たち、(別に人助けのつもりで佳乃と付き合っているつもりはないのだけれど)泉の背を見て改心でもしたのだろうか。

 それならばいいことだ、と泉は嬉しく思った。

「大はしゃぎなんて、とんでもないけど」
「えー! どうして!?」
「泉に好意持ってるから、ってこと?」

 設楽とのあれこれを細かいところまで説明するわけにはいかない。

 適当に逃げ道を作るべきだと、まぁそんなところだ、と頷くと、

「さっすが泉は男を見る目も違うのねぇ」とわけのわからないことを千紗はしみじみと言った。

「うん、あの設楽にむき出しの好意を向けられてコロっといかないばかりか鬱陶しくさえ感じるなんて……同じ高一女子とは思えないわ。ってことは何、むっちゃ年上の駆け引き上手な超エリートが好みとか」

 確かにあんなカスに好意を向けられてコロッといくやつの気は知れないけれど、別にものすごい年上も駆け引き上手も超エリートも興味はない。

 どの条件にしても、超が付くほど面倒そうなやつらばかりではないか。

 響子の抱く泉の理想像とはいったいどんな人物なのだろう………アラフォーのエリート官僚、とか?

 言葉に出るということは軽く響子の理想のタイプなのではないのかというにおいもするのだけれど。


 まぁ、そんなことはどうでもいい。
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