キミは聞こえる

五章-3

 出席番号順に試験の順位が発表されるにあたり、安田は廊下に、生徒は教室で各々自学に励んでいる。(もちろん千紗は寝ている)

 うれしそうな顔で戻ってくる者、深刻そうな顔で戻ってくる者、さまざまな生徒が入れ替わり出入りを繰り返す中、つい先ほど桐野が廊下に出て行った。

 泉はというと、教科書とノートを開きシャーペンを握りしめたまま学年朝礼での設楽との会話を思い返していた。

 覚醒。

 波動。

 無意識による≪繋ぎ≫。

 静かな教室にはカリカリとシャーペンを滑らせる音、ページをめくる音、時計の秒針が響いている。

 その中でときおり、何番だった? ここってこうでいいんだっけ? 昨日のドラマ見た? という囁き声が交わされる。

 そのたびに泉はぎくりと身を固くする。

(ちがう。ちがう)

 確かに耳で聞いているはずだ。

 盗み聞いているわけじゃない。

 生まれ持った聴覚が彼らの声を拾っているだけだ。

 大丈夫、心は繋がれてはいない。

 だいじょうぶ、だいじょうぶ。

 そうやって自分を落ち着かせてからふたたび視線をノートへ落とす。

 が、生徒の私語というのはなかなか止むものではなく、あっちで話せば今度はこっちがと、ひそひそ声は呆れるほど延々と続く。

 そのたびに今の声が肉声か心の声であるのかを判断し、心を繋げてはいないかを確認する。

 軽く、頭痛がした。
 1時間目の、それも自習の時間に何故これほど神経を使わねばならないのか。

 自分の身体をこれほど恨めしく思ったことはない。


 ……いったい私は、どうなってしまったのだろうか。 


「工藤、次」

 戻ってきた桐野が自分の次の出席番号の生徒を呼んだ。

 視線を交わし、工藤と呼ばれた少年は開いていた教科書にシャーペンを挟むと、廊下に出た。

< 534 / 586 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop