キミは聞こえる
 ――それにしても。

 やはり自分は"てっぺん"というものに対するこだわりが抜群に弱いのだな、と改めて思い知らされる。

 弱いどころか皆無に等しいのだからどうしたものか。

 この競走社会、闘争心の欠片もない自分はどう切り抜けていけばよいだろう。

 流れ流れて気づけばお婆さんになっていましたということが現実に起こりそうで少し不安になる。

 泉を見下ろして安田はほろりと苦く笑う。


「あいかわらず、淡白だな」


 どういう意味か。
 万に一つ、褒め言葉ではあるまい。

 無言で問いかけの眼差しを送ると、

「もうすこし、素直に嬉しがってもいいんだぞ」

 喜んだ顔をしたり、飛び跳ねたり、自慢したり、いろいろと表現はあるだろう、と安田は言う。

「それとも向こうの学校で、どんな成績を取っても動揺を見せてはならないとでも言われたのか」
「いえ、そんなことは…」
「今回のテストがあんまり簡単すぎたか?」
「いえ」

 額に汗を滲ませるほど難しくはなかったけれど、簡単過ぎると認められるテストなどこの世にはないと泉は思う。

 泉はテストという存在において、いかなる試験だろうとすべてにおいて等しく真剣に向き合おうと決めている。

 それがどんなに小さなテストであろうと関係ない。

「そうか」

 そう言うと、安田は手元のボードになにかを書き始める。

 気になるけれど、おそらく180cm以上あろうかという長身男の抱えるボードの内側を160㎝の自分が覘くことはまず無理である。

 つま先立ちでもすれば、こらこらと隠されてしまうのがオチだ。

「いやな、俺が(監督として)見ていたのは二教科しかないが、どちらもずいぶんと余裕そうだったから」
「……中間テストの内容は、すべて中学生のときに済ませていたので。次の試験ではどうなるか」
「謙遜か。いやいや、代谷なら低い順位にはならないだろう。授業をしていればわかるよ」

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