キミは聞こえる
二章-3
「―――ちょっ、あり得ないんだけど!」
部屋のドアを開けた瞬間、千紗の悲鳴が突風となって泉たちを襲った。
ない、ないないないー!
そう言ってカバンの中に頭を突っ込む千紗をそばで眺めていた響子が泉たちに気づき、おかえり泉、とひらひら手を振る。
「ごめんねーうるさくて」
苦笑する響子に首を振り、
「どうしたの、なくし物?」
尋ねると、千紗がぷはっと顔を出して、そうなのよー、とがっくり肩を落とした。
「なに無くしたの」
「財布。知らない? でっかいリボンついてるヤツなんだけど」
千紗の財布は強烈である。
ギラギラのラメが効いたショッキングピンクの長財布に特大サイズのリボンがついているなんとも女の子らしい財布だ。
忘れようとして忘れられる物ではなかなかない。
「ごめん、知らない」
「わ、わたしも」
付け足すように言った佳乃の言葉などまるで聞こえないように千紗は頭をかきむしった。
「どこいったんだろー、全然持ち出してないはずなんだけどなー」
「とか言って、どっかで落としてきたんじゃないの」
「ほんとだって。なにも買いに行ったりしてないし。持っていったペットボトルだってこの部屋の物だったじゃん」
「―――と、いうことは」
響子はあごに手を乗せて、なめるように千紗、泉、佳乃を順に見回した。
……いったいどうした。
元に戻ると、まるでどこぞの刑事ドラマ、探偵アニメで見かけるようなセリフを、いかにもといった口調で響子は言った。
「この中に、犯人がいるってことじゃない?」