キミは聞こえる
 ふと、

 こいつも理事長と同じ、泉をこの学校から追い出したいと考えている者の一人なのだろうか、

 と思った。

 低い順位にはなるまいと、いささか決めつけるような物言いをするのも、泉の知能レベルがこの学校に合っていないことを暗に教えようとしている現れだったとしたら。

 安田は言った。

 素直に嬉しがってもいいと。

 素直。

 それは、泉に対する嫌味であろうか。

 あるいは軽蔑か――……。

 鈴森南高校に通っている以上、高校の程度に嘘でも合わせるべきだろうと。

 それが出来ないのなら出て行ったほうがいい。

 物足りなさそうな生徒が一人いれば、そのぶん教師たちや周りの生徒たちのやる気にも影響を及ぼすのだから。

 ……そう、言いたいのか。

 俯くと、まぶたの裏にたちまち蘇る理事長室の光景。

 鼓膜に響く大伯母の声。


 願わくば、被害妄想であって欲しい。


 すべて。

 ともすれば引き込まれる悲愴の闇なにもかも、泉の勝手な思い込みだと信じたい。


 安田と話を続けることにいよいよ負担を感じて、泉は自ら会話を中断させるよう、思い切って言った。

「あの。この時間は順位を聞くためのものだったんじゃないんですか」

 安田は面食らったように唇を軽く引き結んだ。

「……そ、そうだな。すまん、時間を取らせてしまって」
「いえ」

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