キミは聞こえる
 泉は代谷、まだ大勢の生徒が自分の順番を待っている。

 こんな調子では授業中にとうてい最後の生徒まで回らないだろう。

 はたして安田は泉の思惑通り教室に戻っていいと言ってくれた。

 だが、タダではなかった。

 それなら、と一つ、注文をつけられた。


「今度、いちど面談をしないか」


 眉をひそめ、

「二者面談、ですか」と泉は聞き返す。

「ああ。明日――も、明後日も会議だな。その後……はちょっと職員室に行ってみないとわからないが。日にちは追って伝えるということで」
「全員ですか?」
「全員? あぁ、面談が、か?」

 黙ったまま泉は頷く。

 いや、代谷ひとりだが、と安田は言った。

「何故ですか? 私、なにかいけないことでもしましたか」
「いや、そうじゃないんだ。そうではないんだが……二ヶ月間学校に通ってみて感じたことや今後の目標なんかをいろいろと聞いてみたいと思って」
「二ヶ月学校に通ったのは私ひとりじゃないはずです。私だけが先生と面談する理由がわかりません。理由もないのに時間を割く必要性を教えてください」

 つい早口になっていたことに、一息に言い終えてから泉は気づいた。

 はっと口を押さえて見た安田の顔には戸惑いの色が浮かんでいる。

 普段、教師等の前では特に、極限まで無口に近い冷静な泉の双眸に、それとわかるほどの苛立ちの炎が揺れている。

 彼女に限って、そんな剥き出しの感情を投げつけられるとは露ほどにも思わなかったのだろう。

 泉自身、口をついて出た言葉のとげとげしさに驚いた。

 教師に刃向かうなど、栄美では考えられないことだったのに。

 ……慣れというものは、恐ろしい。千紗や響子に影響されたのだろう。


 否、もちろんそればかりではないことも、泉はちゃんとわかっていた。


(なにを、動揺してるの……私…………)

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