キミは聞こえる
 視線を逸らし、唇をきつく引き結ぶのは、今度は泉の番であった。

 今ほど気まずい状況はない。

「しろたに…」
「面談は――」

 顔を背け、続く言葉を紡いだ後は、速やかに教室に戻らせてもらうという意思を全身で訴えながら、泉は絞り出すように言った。

「どうしても必要なら、おっしゃってください。でも私、別に学校に不満とかないですから」

 安田に次の言葉を発する余地を与えず、泉は足早に前方のドアから教室へと戻った。

 次の生徒に声をかけ、寄せられるいくつかの視線をすべて無視して席に着く。

 声には出さず、長く息を吐きながら泉は額を押さえた。

 目頭が危うげに熱を帯びるのを感じ、泉は奥歯を噛みしめる。

(私の、何がそんなに悪いの)

 何故、優等生がいることが負担のような言われ方をされねばならぬのか。

 栄美が集めたくて仕方がない優良児たる泉を、どうしてこの学校の教師は煙たがるのだろう。

 泉の才能を思って言っているのだ、と理事長は言った。

 安田が簡単すぎたかと訊くのも、泉の実力がこの学校レベルに合ってないと思っているから。

 物足りなさそうにしていると理事長に告げ口をした教師たちも、おそらくは安田たちと同じ考えなのだろう。

 ……だから、なんだ、と泉は思う。

 どいつもこいつも、私を邪魔者扱いして―――……。

 確かに、真剣に授業を受けていない泉にも非はあったかも知れない。

 けれど、泉を非難する前に叱るべき生徒なら他にいくらでもいるだろう。

 例えば現在爆睡中の千紗がそう。携帯でメールを打っている生徒も、腿の間に漫画を挟んで読んでいる生徒だって一人や二人じゃない。

 目に見えて注意するべき生徒より、これといって誰に迷惑をかけるでもない泉を追い出したい理由がわからない。

 どうしても腑に落ちないのだ。


 泉が、いいのだ、と、この学校がいいのだ、と言えば、それでいいではないか。

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