キミは聞こえる
矢吹の席は、廊下側の一列目、真ん中である。
ちょうど、廊下で安田が面談をしている場所の、壁を越えた直線上にあたる席。
安田との会話を耳にしてしまったのだろうと思う。
口論とまではいかずとも、泉の声には明らかな怒気が込められていた。
声は普段より低くしていたから、内容すべてを聞き取ったとは思えないけれど、なにかあったのかも知れないとは気づいたかも知れない。
だからこうして気を遣ってくれたのだろう。
横目に矢吹を窺い見れば、耳にイヤホンをはめ、黙々と自習に励んでいた。
賑やかすぎるタイプではないけれど、だからといって根暗という印象はなく、授業とその他の切り替えをしっかりしている手頃な生徒という感じだ。
…まぁときおり、おや? と思わせるようなはっきりとした物言いをして、いささか顔を引きつらせてくれるけれど、不信感を買うような人間でないことは確かだ。
手紙をペンケースに入れて、ノートの筆談を消し始める。
途中、暴走という二文字が目に留まり、泉は口の中で低く唸りながら、
どうかこのもやもやした胸の内まですべて消し去れますようにと、
願いを込めて一心に消しゴムを動かし続けるのだった。
ちょうど、廊下で安田が面談をしている場所の、壁を越えた直線上にあたる席。
安田との会話を耳にしてしまったのだろうと思う。
口論とまではいかずとも、泉の声には明らかな怒気が込められていた。
声は普段より低くしていたから、内容すべてを聞き取ったとは思えないけれど、なにかあったのかも知れないとは気づいたかも知れない。
だからこうして気を遣ってくれたのだろう。
横目に矢吹を窺い見れば、耳にイヤホンをはめ、黙々と自習に励んでいた。
賑やかすぎるタイプではないけれど、だからといって根暗という印象はなく、授業とその他の切り替えをしっかりしている手頃な生徒という感じだ。
…まぁときおり、おや? と思わせるようなはっきりとした物言いをして、いささか顔を引きつらせてくれるけれど、不信感を買うような人間でないことは確かだ。
手紙をペンケースに入れて、ノートの筆談を消し始める。
途中、暴走という二文字が目に留まり、泉は口の中で低く唸りながら、
どうかこのもやもやした胸の内まですべて消し去れますようにと、
願いを込めて一心に消しゴムを動かし続けるのだった。