キミは聞こえる
 不穏な沈黙に包まれるクラスをぐるり見渡しながら、教師は空気の読めていない発言をいっそ気持ちのいいくらいはつらつと飛ばしたかと思うと、

「悪いな、前の授業で言っておくつもりがとんと忘れていた。今日は他校の先生方が授業を見学なさる日だった」

 ちっとも悪びれることなく、それも手をフリフリしながらそう言った。

 その瞬間、誰もが思った―――

 この虚け爺!


「さぁさどうぞどうぞ、お入りください」


 生徒たちの冷ややかな眼差しなどもろともせず、うっかり教師は廊下に佇む同業者等に安っぽい笑みを振りまく。

 何人かの女子生徒が慌ただしく身だしなみをチェックする。もちろん泉は何もしない。

 あぁあ、一番後ろの席とかめっちゃのぞきこまれんじゃん。喫煙者いないといいなぁ、と肩を落とすだけだ。

 ぞろぞろと教師が中に入ってくる。

 それと一緒に、化粧品の臭いがそこはかとなく教室に流れ込んできた。

 不快なのか、誰かがわざとらしく大きな咳を飛ばした。

 教室の温度が少し上昇した気がする。密度が上がることで二酸化炭素が増えているのだと思うと非常に気持ちが悪い。



「代谷」



 不意に聞いたことのある声が耳朶を揺らした。
 泉ははっと顔を上げる―――上げて、

(まさか)

 と、心の中でかぶりを振った。

 そんなまさかだ。

 ここにあの人がいるはずが―――と思っているとまたしても、代谷、と泉を呼ぶ声がした。

 今度はたしかに空耳ではなかった。

 六時間目で眠気はピークだが、この不測の事態に意識はわりとしっかりしている。


 泉はとっさに首を捻り、声の主を探す。
 その人物はすぐに見つかった。


「久しぶりだな」

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