キミは聞こえる
次の瞬間、部屋の空気が変わった。
緊迫した雰囲気、とでもいうのだろうか。
風呂上がり、ほっと一息をつく穏やかな時間が流れるはずの今。どうしてこういうことになるのだろう。
響子の発言に泉は軽い頭痛を覚えた。
(ええぇ………)
しかし、呆れているのはどうやら泉だけらしく、誰もがわずかに眉根を曇らせ、相手をちらちらと盗み見るように視線を動かしている。
三人の目は言っていた。
誰がやった? と。
途端、こめかみのあたりに鈍痛が響いた。
話にならない。
わざわざ立ち止まって話に耳を傾けていた自分が急にあほらしく思えてきて、泉は足を動かす。
おおかた、カバンの底に入れたかして見つけるのが困難なだけだろう。
冷たい空気もなんのそのな泉が平然と歩き出すと、それに気付いた三人ははっとしたように互いの探り合いをやめて、それぞれの居場所に散る。
千紗はふたたびカバンへ、響子は自分のカバンを漁りはじめる。
きょろきょろとせわしない挙動不審娘はいったんは自分の荷物の場所へ向かったけれど、三分と保たず、ぱたぱたと泉に寄ってきた。
(……はぁ)
物音はするが、誰も話そうとはしない。
沈黙が落ちる。
(めんどくさい……)
じっとりと重苦しい空気が残るのは否めないところだろう。
今の今で、そうそう気分転換できる者はいないはず。
互いに疑惑が解けなければ、このもやもやはずっと続くことだろう。少なくとも、この合宿中は。
誰もが背中で言っている。
早く名乗り出ろし。
しかし、千紗と響子は、それだけでなく、
《―――栗原》
誰がやったかを、決めつけているようだった。