キミは聞こえる
 あれ、と思った。


 それまで板書していた内容がすっかり変わってしまっていたのだ。

 泉が気を取られているうちに、教科書のページはさほど進んでいないにも関わらず、チョークだけはずいぶんと消耗されたらしい。

(あとで栗原さんに写させてもらわなきゃ)


 それからチャイムが鳴るまでのなんと長かったこと。

 侮るなかれ十五分。

 緊張が切れるなりたちまち襲いかかってきた睡魔になんとか勝ち抜いた泉は、起立さえももどかしく適当に礼を済ませると、忙しなくあたりを見回して手塚の姿を探した。

「なぁしろ――」

「ここだ、代谷」


 いつからそこにいたのか、手塚は泉の後ろ、ロッカーに体重を預けるようにして佇んでいた。

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