キミは聞こえる
「こうも飾りっ気なくおおっぴらに褒められるのは新鮮だな、代谷」
「はぁ……」

 思いがけず手塚の表情は穏やかである。

 栄美ではあり得ない、泉と同じ歳の少女たちからのスキンシップに慣れず戸惑っているのか、

 あるいは、

 なってないガキどもだ、と不快な思いで嘲笑っているかのどちらかであろう。

 ホストにもなれるだろうほど、手塚の微笑は完璧である。

 素直に安心してよいのか泉にはわからない。

 すっかり手塚に心酔してしまったいたいけな少女等の腕を手塚はやんわりと解かせると、ところで代谷、と元担任は泉に向き直る。

「おまえは理事長の遠縁にあたるのだそうだな」

 どこから聞いたのだろう。

 鈴森南を受験すると話したとき、泉は家の事情でとしか教えなかったはずだ。理事長が話したのだろうか。

「はい」 
「話がある。連れて行ってもらえるか」

 大伯母に何の用か。

 訝しげな眼差しを向ける元生徒に、手塚は、

「時間を取ってもらえるよう事前にアポは取ってある」

 とだけ答えた。

 それだけでは、どんな話が交わされるのか判断するのは無理である。

 とっさに力のことを思い出したけれど、朝礼のことがあり、迂闊に使うのは躊躇われた。


「代谷もまじえて三人で、だ」
「私もですか」


 泉は軽く目をみはる。

 次の瞬間、彼女の頭の中に、一つの考えが浮かび上がった。

 本来ならば決してこのような土地にやってくるはずのない、それも中等部の教師がここにいる――


 その、本当の理由に。


「代谷、案内を」


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