キミは聞こえる
「編入のお誘いは、今はじめて聞きました。ですが、何となくそういったお話ではないかとは、思っていました」

 そう―――手塚がここ鈴森南高校までわざわざ足を運んだ本当の理由―――

 それは、泉を、栄美女学園に呼び戻すためだったのだ。

 手塚はそのためのいわば使者。

 最近で一番泉と接点がある栄美の教師をさがそうと思ったら三学年で担任を勤めた手塚を除いて他にはいない。

 そのまま高等部に進学しなかった泉に、高等部の教師に知り合いはいなかった。

「さすが察しがいいな。ならば私が言いたいこともわからないはずはなかろう?」

 手塚の言うハテナに込められた意味は、単なる転校に合意するか否かというだけではなく――

 泉がこの学校にこれ以上居残り続ける意味があるかという必要性を問うていた。


 一時間授業を聞いた手塚にはわかっただろう。

 授業風景、進度状況、指導レベルがあまりにも栄美とかけ離れていることに。

 そして思っただろう。栄美で常に上位に鎮座していた泉のいる場所ではないと。
 理事長や安田が思っているように、手塚もまた、否、手塚だからこそなおのこと、ほんの一時間とはいえそう感じたに違いない。

「はい」
「中等部の先生方も代谷が戻ってくることを望んでいる。もちろん、授業を担当するのは高等部の先生方だから、私たちが望んでいるのは代谷に直接授業をすることではない。わかるな?」
「はい。私の将来を考えてくださっているんですよね」


 おまえはこんなところで終わる生徒じゃない。

 やれば、やった分だけ伸びるというのは才能だ。

 生まれながらにして賢い頭脳を持つおまえが、その才能を仕舞い込んだまま高校三年間を過ごすのは教職者として見るに耐えない。

 そんな無駄な時間を過ごさせたくはない。


 代谷には、代谷にふさわしい居場所があるのだ


 わかるだろう、代谷――――



 無意識に手塚の声を聞いてしまい、はっとして泉は俯く。

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