キミは聞こえる
 泉はようやく理解した。

 ちくりと馴染みのないかすかな痛みが胸に走って、どこかもの悲しい気分になった。

 おそらく―――

 佳乃は"はめ"られたのだ。

 はじめから彼女たちは財布をなくす算段をしていたのだろう。

 決めつけている、などではない。

 はなから佳乃を犯人にするつもりで財布を"隠した"のだ。
 そうに決まっている。

 でなければあれほどタイミングよく騒ぎ出すはずがない。
 泉たちが帰ってきたところを狙って、わざとらしくナイナイと声を上げたのだ。

(くっだらなぁ……)

 濡れた頭をタオルでごしごし拭きながら泉は小さく息を吐いた。

 そのままちらりと室内を見回す。

 財布をなくしたとわめいている千紗も、彼女のグルなのだろう響子も二人とも、財布を捜す演技に必死だ。

 そんな彼女たちの背中ははっきりと言っている。

《栗原がやった》と。

 佳乃のせいにして、佳乃を今以上にクラスで孤立させようとしているのだろう。

 おおかた、千紗たちが部屋を留守にしている間に財布を盗んだ最低なヤツとでも言い触らし回るつもりなのだろう。

 見つかっても見つからなくても財布ははじめから千紗の手の中にある。ゆえに彼女の方には一円の損もなく、

 しかし被害に遭ったという事実は事実としてクラスメートの記憶に刻まれる。

 悪いのは佳乃。

 周りは千紗が企んだとは微塵も思わないだろう。

 これまでの、クラスの佳乃に対する接し方を見ていればわかる。佳乃の味方につこうとする者はただの一人もいない。

(つくづく不幸だね、アンタ)

 ぶるぶると指を震わせながらカバンの中を探す佳乃に泉は心ばかり同情すると同時に、

 佳乃を落とし入れようとする子供じみたやり口に呆れる。


 その一方で、

 
 沸々と苛立ちがこみ上げるの感じていた。
 


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