キミは聞こえる
(私の、将来)

 ふさわしい、居場所――。

 余計なお世話だ、と言いたいところだが手塚を前にしてそのような発言は死んでも言えない。

 だが、手塚が栄美に帰って来いと言うのはひとえに泉を思ってのことである。

 仮に、その裏に学校の名誉や実績だという生徒には一切関係のない後ろ暗い事情が絡んでいようと、手塚の言葉には少なくとも泉を排除したいという願いはない。

 理由はどうあれ泉を欲しいとだけ言ってくれる手塚の言葉は、泉の胸の内を平らかにこそすれ、不快な苛立ちに染めることはない。

「おまえは今からでも充分授業に追いつける。わからないところがあれば訊けばいい」
「――……考える時間をくれませんか」

 来いと言われてすぐさま、はい、行きます、とは返せない。

友香のいるこの地を離れたくない。桐野とも。それに小野寺と約束したのだ。

 佳乃を守ると。

 彼の目が届かない時間、場所では、女の自分が彼女を守り抜くと。彼女に害をなす心無い虫たちに目を光らせ、ときには盾となるのだと。

 約束を途中で放棄することは出来ないし、友である佳乃をどうあっても見捨てられない。

 手塚の言葉にまるで心が揺らがないと言ったら嘘になるけれど、佳乃や桐野と離れたくない気持ちも絶対に確かなものであるから。

 応えには慎重にならなければならない。


 理事長室を後にして、泉は手塚を職員及び来客用玄関まで見送った。
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