キミは聞こえる
 このままこの歪んだ教育環境で残りの数年間を過ごすことが、本当に正しい道なのか。
 

 ぎゅっと入学案内の冊子を抱きしめて、足元に伸びる手塚の影を見つめる。

 友情を否定されて、それは、泉の中では佳乃を否定されていることと同義だった。
 しかし、あまりの言われように少なからず腹は立っているはずなのに、ちっとも言い返せない歯がゆさ。

 相手が手塚だから言葉が出ないとゆうのではなく、彼の言うことこそ、泉の心の根っこにあるものではないかと彼女自身が疑っているからであった。

 ふと手塚の視線が泉の足元におろされる。

「あまり、感心できる姿ではないな」

 あっ、と短く声を上げ、意味もなく片方の足をもじもじともう一方の足の後ろに隠す。避難訓練でもないのに内履きで外に出るなということだろう。

 手塚は正門へとふたたび足を向け、背を向けたままでこう言った。

「いい返事を期待している」

 この場での返事を待たず、手塚は数歩先へ進んだところでやおら足を止めると、言い忘れていた、と肩越しに泉を振り返った。



「―――二嶋は、帰ってきたぞ」

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