キミは聞こえる
 刹那、どくん、と大きな音を立てて心臓が飛び跳ねた。


 二嶋が、二嶋理那が、まさか、そんな――。


 栄美を去った者に二度目はない。
 詳しくは知らないけれど、泉が聞いた話ではそんな前例は未だかつてなかった。

 だからないと――あり得るはずがないと、無理ではないが、まずあり得ないのだと、そう言われていた。

 しかし理那は帰ってきた。

 にわかには信じがたい話だが、手塚が嘘や冗談を言う人ではないと知っている。

 目を剥く泉を、しかし手塚は一度として振り返ることなく、無情にも門を出て行ってしまった。


(二嶋さんが)


 帰った。

 栄美に戻ってきたと、そう手塚は言ったのか。

 その事実をどう受け止め、飲み下していいのか、泉は考えあぐね、大いに戸惑った。


 手塚を見送ってからも、泉はしばらくその場から動くことが出来なかった。

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