キミは聞こえる
五章-7
家々を取り囲む外壁に挟まれた薄暗い小路を抜けて、西日の降り注ぐ通りへと出たとたん、縁石の向こうを一台のバスが走り抜けた。
何気なく目を向けてみれば、バスは通りに面した停留所にゆるやかな速度で停止した。
ぷしゅーと音がしてドアが開く。
誰か乗っているのだろうか、ガラス越しに見える車内に人らしき影はないのだけれど。
「じゃあ、代谷さん」
「また明日ね」
軽く手を上げる佳乃に微笑み返して、つま先を停留所の方へ向けた――
そのときだった。
「―――泉ちゃん?」
躊躇いがちに名前を呼ばれて泉は顔を上げる。
手を庇にして、上目遣いに泉を見つめていたのは、大きなキャリーバッグを傍らに、どう見てもよそ行きのワンピースを着た年若い女だった。
夕日を浴びて輝くやわらかそうな栗色の毛が吹き抜ける風と戯れるようにふわっと広がった。
頼りなげな首の太さ、すこし尖ったアゴ、まぶしさで細められた目には確かに見覚えがあった。
「泉ちゃんよね? やっぱりそうでしょ?」
確信を持った声で女はもういちど泉の名を呼んだ。近づいてくるその足が徐々に駆け足になって、輪郭がはっきりしてくる。
根本の盛り上がった前髪が風と共に後ろに流れて、彼女の顔のすべてが露わになった。
あっ、と泉は声を上げた。
「もしかして、きよか、さん……?」
何気なく目を向けてみれば、バスは通りに面した停留所にゆるやかな速度で停止した。
ぷしゅーと音がしてドアが開く。
誰か乗っているのだろうか、ガラス越しに見える車内に人らしき影はないのだけれど。
「じゃあ、代谷さん」
「また明日ね」
軽く手を上げる佳乃に微笑み返して、つま先を停留所の方へ向けた――
そのときだった。
「―――泉ちゃん?」
躊躇いがちに名前を呼ばれて泉は顔を上げる。
手を庇にして、上目遣いに泉を見つめていたのは、大きなキャリーバッグを傍らに、どう見てもよそ行きのワンピースを着た年若い女だった。
夕日を浴びて輝くやわらかそうな栗色の毛が吹き抜ける風と戯れるようにふわっと広がった。
頼りなげな首の太さ、すこし尖ったアゴ、まぶしさで細められた目には確かに見覚えがあった。
「泉ちゃんよね? やっぱりそうでしょ?」
確信を持った声で女はもういちど泉の名を呼んだ。近づいてくるその足が徐々に駆け足になって、輪郭がはっきりしてくる。
根本の盛り上がった前髪が風と共に後ろに流れて、彼女の顔のすべてが露わになった。
あっ、と泉は声を上げた。
「もしかして、きよか、さん……?」