キミは聞こえる
　弾かれたように泉も駆け出して、伸ばされた継母――聖華の手を取った。

　ほっそりと、それでいてしなやかな指先が泉の双手を優しく握りしめる。

「代谷さんのお家まで行かないと会えないとおもってた。よかったここで会えて」

　微笑んだ聖華の唇の間から真っ白な前歯がのぞく。

　さすがは元ホステス、と半ば感心してしまうほどに極められたこの表情。
　首を傾げる絶妙な角度。ちょっぴり幼く聞こえる高めの声も、その頃の聖華が試行錯誤の末にたどり着いた彼女をもっとも魅力的に見せる商売道具なのであろうと思う。

「元気にしてた？　町には、学校には、もう慣れた？」
「はい、だいぶ。聖華さんもお変わりなく？」

　それでなくても泉より背の高い聖香は今日はとくにヒールを履いているためいっそう差が開き、泉を見下ろす恰好になる。

　邪魔な髪を耳にかけると、継母の耳たぶでシンプルな意匠のピアスがきらりと光った。

　あいかわらずなんて綺麗な人なんだろうと、半ば惚けたように見入ってしまう。

　こうして泉を見下ろしてもまったく垂れない皮、現れないシワ、ファンデーションが粉になることもない。

「ええ」
「それで、父さんは？」

　聖華の背後へ首を伸ばして藤吾の姿を探す。

「一緒じゃないんですか？」
「藤吾さん――お父さんは、まだちょっと仕事が残ってるらしくて同じ飛行機には乗れなかったの。それより泉ちゃん、私代谷家の皆さんにご挨拶がしたいから、案内してもらえるかしら」

　そう言ってキャリーケースを傾けた聖華に、かすかな違和感を覚えながらも深くは気に留めず、こっちです、と泉は橙色に焼ける歩道を促した。

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