キミは聞こえる
 絞り絞ってようやく出た言葉は、とても単語とは言えないような途切れ途切れの音だった。

 家族の視線が一斉に泉に向けられる。

 すぅと血が下がっていくのがわかった。

 アフリカ。

 アフリカ。まさか、本当に、あの、アフリカ…?

 聖華の声が頭の中で木霊する。
 アフリカ。アフリカ。

 まさか、そんな。

 バス停の傍で感じた違和感、そして、さきほどの聖華の眼差し。
泉たちからの質問になかなか口を割ろうとしなかったことも、いまになって思えば確かに不自然なやり取りだった。

職業病とも言うのだろうか、冷静さと笑顔を常に欠くことのなかった聖華が、表情であれ口調であれ、おや? と思うところがあったのに、何故バス停で気づくことが出来なかったのだろう。


 それらが意味するよからぬ事実に―――……。


 泉の掌から渡された香水の瓶が滑り落ちる。
 夏用に替えられた薄く固いマットにぶつかり鈍い音が響いた。

 ガタッと音を立てて立ち上がるや否や、泉は聖華の胸ぐらを掴んだ。
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