キミは聞こえる
「泉ちゃん! 駄目、乱暴はよしなさい、まずはちゃんと話を聞いて――」
「ちょっと、それ一体どういうことなの! 父さんがアフリカ? アフリカ? だったら今ここにいるあんたは? あんたはなんなのッ! 父さんと一緒に海を渡ったはずのあんたがどうしてここにいるのよ!」

 理事長の声など今の泉には届かない。
 強く揺さぶる泉になされるがまま聖華は暫しそのまま押し黙った。

 やがて、聖華の眉根が苦しげに寄せられたかと思うと、形よく結ばれた唇が微かに震えるのを泉は見た。

「藤吾さんが」
「父さんがなに」
「泉ちゃん、とりあえずその手を離して――」

 泉の腕を掴む昌伸の手を振り払う。

 およそ泉から受けるとは思わない乱暴な態度に怯んだようになって、昌伸は大人らしく再度手を伸ばすべきところを続く言葉もろともしおしおと引っ込めてしまった。

 美遥も達彦も狼狽して互いの顔を見合わせるばかり。

 その中で今のところもっとも勇敢な理事長はなおも泉を抑えようと必死に声を張る。

「泉ちゃん、お母さんになんてことするの! ひとまず落ち着きましょう、ね」
「父さんは何て言ったの? 言って、早く!」

 血走った眼、凄みのある声。
 鋭い眼差しは射貫くように聖華を見据える。続く言葉次第ではこの手をそのまま聖華の喉元に押しつけんばかりの勢いである。

「藤吾さんが、次に向かう場所は危険だから、連絡するまでは日本で待つようにって」

 そんな―――喉が震えた。

 ―――馬鹿な。
 うそ、だろ―――……

 少女の目から光が消える。

 鼻先で嗤う。


「ハッ。それで、あんたはこうして言われた通りのこのこ帰ってきたって言うの? 治安の悪い環境に父さん一人だけ送って?」
「……」
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