キミは聞こえる
 次に口を開いたのは、響子ではなく、千紗だった。「泉を疑ってるわけじゃないよ」

 たださ―――……

 と、そこで一旦、千紗は言葉を切った。

 泉から佳乃へ視線を移し、怯える佳乃を一瞥すると、ふたたび泉に向き直る。

「たださ、こういうこと、一度あったから。中二のときの林間学校で、栗原さんが班員の"しおり"を隠したんだよ」

 ねえ?

 視線を送られた響子は迷いなく頷いた。

 直後、息をのむ音がして、それが佳乃のものだとはすぐにわかった。

 みるみるうちに佳乃の顔から血の気が引いていく。

 まさか、と泉は佳乃の方へ首を捻った。

 彼女の数歩先に立っていた佳乃の身体は、がくがくと震えていた。

 違うと首を振っているのか、全身の震えでそう見えるだけなのか判別出来ないほどに。

 千紗の言葉には、重みがあった。
 それは、揺るぎない絶対の自信だ。

 あざ笑うような冷たい含みもあると言えばあったけれど、彼女たちが嘘を言っているとも思えなかった。

 神経を研ぎ澄まして彼女らの"声"に集中してはいたのだけれど、予想外なことに、なにも聞こえてこなかったのだ。

(そんな、まさか。"あの"栗原さんが、そんなこと……)
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