キミは聞こえる
 すると、またしても千紗が言った。

「泉はやっぱり私を疑ってるんだね。いいよいいよどうせ、みんな私がドジったと思ってるんでしょ。そうですかそうですか、いいですよーだ」

 はぁ? と喉元まで出かかった。

 投げやりで、極めて幼稚な喋り口調に、思わずムッとした。

 そればかりならまだしも、勝手に決めつけて勝手に不機嫌になっているところが、ものすごく感じが悪い。

 怒りたいのは断然、迷惑を被ってるこっちなのに。

「だったらはっきり言わせてもらうけど、私はこの部屋のヒト全員疑ってるよ」

 ぴしゃりと言うと、三人の視線が一斉に泉に向けられた。

 鋭く突き刺さったのは、おそらく千紗と響子のモノだろう。

 ここで、言いたいことを我慢できれば立派な大人なのかもしれないけれど、無理だった。

 千紗の、どこまでも自分勝手な物言いが決定打だった。

 それまでは、面倒くさいという理由で大目に見てやる気持ちが勝っていたけれど、何故か自分まで巻き込まれて、挙げ句勝手に拗ねられて、

 気に食わない。俗語を使えば、ムカツク。

 気に食わないやつに言いたいことを言ってなにが悪い。

 たしかに佳乃は中学時代、悪さをしたのかもしれない。

 けれど、それも他人に聞いた話で、実際被害に遭ったのは自分じゃないだろう。

 それなのにどうして佳乃に嫌がらせをする必要がある。

「だから、今からその疑いの一つを確かめに行くの」
「……一つってどういうことよ」

 響子が苦々しげに尋ねる。

「一、千紗が男子の部屋に財布を置き忘れてきたんじゃないか。二、一番彼女の近くにいた響子が盗んだ」
「ちょっ、泉アンタ、言っていいことと悪いことがあるわよ―――」

 半ばキレた響子が噛みついてくるのを無視して、泉は続けた。

「三、私が見ていない間に栗原さんが千紗のカバンから抜き取った」

 泉に向けられていた視線が離れた。

 すでに泣きべそをかいている佳乃の方に移動したのだ。

「し、代谷さん……」
 
 鼻水をすする佳乃の眼差しが失望に沈んだ次の瞬間、千紗の顔が不吉に歪んだ。


「そんなの、三に決まってんでしょ。三」


 ハッと、千紗は一息で嗤った。


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