キミは聞こえる
《あんなとこ見つかるわけねーよな》

 先ほどロビーに来ていなかった、やっぱり名前のわからない班員の男が呟いたひと言に、泉は途切れかけていた意識を集中し直した。

《なにやってくれてんだアイツらは》

 おまえが言うか。

 迷惑を被ってるのはこっちだというのがわからないのか。

 日中の疲れが祟って眠い上に、周囲の人間の眩暈がするほどの低能っぷりに理性はすれすれだ。

 どろどろとした質の悪い苛立ちが腹の奥をどす黒く染め上げていく。

 いますぐにでもあの男の胸ぐらを掴んで部屋に引きずっていきたいと思った。


 不意に、男の視線がちらりと窓の方へと向けられた。

 ……いや、窓、ではない。

 男が見ているのは、どうやら窓の近くに置かれたミニテーブルのようだった。

 ああ、と泉は心の中で頷いた。

(なるほどね)


 泉は千紗たちが財布をどこに隠したのか、ようやくわかった。

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