キミは聞こえる
 男子生徒の名前を体操服の刺繍で確認し、ああそういえばこんなやつも班にいたな、と思いだす。

 近くで見てはじめて、ニキビが多いという特徴を発見した。

 よし、これで二人、クラスの男子生徒の顔を覚えたぞ。

(ちなみに一人目は、まったくもって不本意ながら桐野である)

「なに?」

 訊くと、男子生徒はポケットからいそいそと、やたらとストラップのぶら下がった傷だらけの携帯を取りだした。

「メアド交換しねえ?」

 顔を覆って泣きたくなった。何だ、この救いようのないお馬鹿さん大集合。

 慌てて呼び止めるからてっきり何か重要なことを思い出したのかと思えば、メールアドレスだなんて―――……


 くだらない。


「私、携帯持ってないから。お邪魔しました」
「ちょちょちょちょっとなんで! そのポケットに入ってるのケータイじゃないのかよっ」

 佳乃の手首を掴んで踵を返した瞬間。

 目ざとくジャージーのポケットに入った四角を見つけた男子生徒が泉の肩を掴んだ。

 指が肩に食い込んで、かすかに痛みが走った。

 むっとして、整った眉をひそめる。

「違う」
「だったら見せてみろよ」
   
 ……貴様、何様だ?

 思わずそう言ってやりたくなった。

 私は女だ。自分で言うのも何だが、れっきとしたレディーだ。

 女に触れるときの力加減も礼儀も知らず、トップシークレットであるポケットの中身を見せろとまで言うか。

 怒りを通り越して呆れる。

 その小汚い顔を洗って出直せアホ。

「違いますから」

 強く言い返し、手を振り払おうとしたそのとき。

「やめとけって」
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