キミは聞こえる

二章-5

 その日の夜。

 教師の見回りも終わり、規則正しい寝息が部屋に溶けて消えていくだけの夜も更けた頃。

 一人もぞもぞと動く黒い影が部屋の壁に伸びていた。

 影は、音を立てないよう布団から出て起き上がると、寒さに震える己を抱きしめながら窓近くへ急いだ。

 布団の熱が逃げてしまわないうちにことを終わらせなければ。

 迅速かつ、慎重に、が肝要である。

 ひんやりしたフローリングに指先が触れたそのとき、

(……あった)

 影の手が動き、机の下からある長方形を取り出した。

 暗くてもなんとなくだがきらめきが見える。

 カーテンの間、窓から射し込むやけに強い月光にかざして、確信する。間違いない。

 それをそのまま床に置くと、影は再び布団へと戻った。

 ぶるると身震いする。

 ああ寒い。

 まだまだ温もりを残した布団はあたたかかったけれど、


「……さむ」


 二分と経っていないはずなのに思いのほか足から熱が奪われていたらしく、指先のあまりの冷たさに、眠気はなかなか訪れてはくれなかった。
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