キミは聞こえる
「―――あった! あったよ千紗ちゃん。こ、これでしょっ!?」

 朝っぱら、起き抜けに爆発した大声が、とろとろした微睡みを容赦なく吹き飛ばした。

 殺意を覚えた瞬間だった。

 声の主が佳乃でなかったら寝ぼけを装って一発本気でぶん殴ってやるところだ。

 泉はもぞもぞと布団を頭からかぶって、私はまだ眠いんだ、と耳を塞いだ。

「ちょ……いま何時だと思ってンの」

 寝起き特有のかすれた声は響子のものである。

「ホントだよ……しかもあったって、いったいなに―――」

 がさがさ動く音がした。千紗の声だ。
 その声が、言葉途中で止まった。

「そ、それ……私の財布。どうして」

 声に焦りの色がにじむ。

 あいにく布団に潜った状態で、顔までは見えなかったけれど、おそらくかなりの動揺がうかがえる表情なのだろうと思う。

「この机の下に落ちてたの!」

 見つかって安堵したためかやや興奮気味に喋る佳乃の声が―――気持ちはわかるが―――正直うるさい。

 泉はさらに奥深く布団にもぐった―――もぐろうとしたところで。

「代谷さんっ、代谷さん、見てっ!」
「いっ、いたい、いたいっ、踏んでる、私の(髪の)毛っ踏んでる! 見るから叩かないで!」

 ばふんばふんと布団を思い切り叩かれた。それも、すこしは加減してくれと思うほど強く。
 
 よろよろと布団からはい出しながら泉は思った。

 君はバレー部にでも入ったらどうだろうかと。
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