キミは聞こえる

 家の門に近づくと、聞いたことのないやたらと高い声がして思わず表札を確認した。間違いない、ここは私が帰る家。

 そろりと玄関を覗き込むと、エプロンをかけた女性が友香の祖父となにやら楽しげに話していた。

 泉に気付いた祖父が「おかえり」と笑いかける。
 祖父の声につられるように振り返った女性と目が合い、

(あれ……この顔どこかで)

 泉は小首をかしげた。
 見たことのある顔だったのだ。はて、だがいったいどこで。

「泉ちゃん、挨拶は」
「こんばんは。はじめまして、代谷泉です」

 祖父に注意され慌てて頭を下げる。

「こんばんは」

 にっこり微笑む鼻先にはそばかすがぽつぽつと浮いていた。
 女性は泉をしげしげと見つめた後、肩越しに振り返って祖父に笑いかけた。「彦(ひこ)さんの言うとおりですね」

「なにがですかな」
「泉ちゃんですよ。すごくかわいい子。挨拶もちゃんとしているし、進士(しんじ)に見習わせたいくらいだわ」
「進士君だって出来た息子さんじゃないですか」
「外ではいい子振り撒いてるだけなんですよぉ。家ではちーっとも手伝いすらしてくれないんだから」

 ぷりぷりと頬を膨らませながら女性は進士という息子を批判した。
 彦というのは祖父のあだ名だ。達彦(たつひこ)を略しているのだろう。
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