キミは聞こえる
 泉は胸の内でひゅうと口笛を吹いた。
 なかなか鋭いじゃないか。

「違う。栗原さん」
「ふ~ん。てっきり代谷かと思ったぜ」
「……なんで」

 訊くと、今度こそ桐野はぱっと向日葵のような笑顔を浮かべて、

「勘!」

 元気はつらつとそう言った。

 ため息が出た。

 ……そうだよな、そうだよ、どうせ勘だよ。

 まともに頭を使えるのかと褒めた自分があほらしい。

 そもそもこの男の辞書に、考えるという言葉が載っているわけがないのだ。

「そう」

 まぁ、と桐野は手にしていたシャベルを無造作に突き刺すと、頭の後ろで手を組んだ。

「勘つーか、昨日のおまえ様子なぁんかおかしかったから、もしかしたらあいつらからなにか感じ取ったのかなぁって思って。どうせあのバカたちが栗原の財布隠せとか千紗たちにいらねぇこと言ったんじゃねーの?」

 驚いた。今度は本当の本当に、驚いた。

 まさか桐野がそこまで勘づいていたなんて。

 泉のことまでなにかあると疑念を抱いたことについては、かなりの上出来だと思う。
 試験なら間違いなく及第点だ。

「知らない」
「知らないってなんだよ~。俺の推理合ってるだろ? てか、実はビンゴだったりして? なぁ代谷ぃ、どうやって財布見つけたんだよ」

 にやにやしながら近いてくる桐野の頬を、泉は力一杯押し離す。

「だから、知らないって―――」
「じゃあ、別のこと教えてくれよ」

 ……は。別のこと?

 今度はいったいなんだ。
 泉は顔をしかめて桐野をあおいだ。
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