キミは聞こえる
 口頭で番号を告げると、桐野はなぜかだらしなく頬を緩め「あとで電話するな」と白い前歯を輝かせた。

 なにがそんなに嬉しいのかちっともわからん。

 だがまぁいいだろう。


 それよりも今は宝探しである。


 まったくもってやる気などなく、出来ることなら宿に帰るもしくは、陽の当たるところで体を丸めてぬくぬくしていたい。

 しかし、長く待ちぼうけを喰らわせられた男子と千紗のねちねちとした応酬を、残りの合宿中ずっと聞いていなければならないのかと思うと、気が重くてしょうがなかった。

 だから仕方なく、ここは一肌脱いでやることにする。

 そして、さっさと静かになってもらおう。

 宝探しで午前中の予定を埋めようと企んでいた先生方には申し訳ないが、善良な生徒の心身の健康のためである。我慢してくれ。

「シャベル持って、ここで待ってて」

 携帯をしまう桐野に言い置いて、泉は歩き出した。

「おい、どこ行くんだよ」
「シャベル持って、ここで待ってて」
「いや、それは聞いたけど。つか俺、すでにシャベル持ってるけど……って聞いてる? おい、おーい代谷ー」
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