キミは聞こえる
「紹介がまだだったね。こちらは桐野さん」
「ご近所さん同士仲良くしましょうね」
やっぱりこの顔見覚えがある。しかもいま、彼女のことを達彦は何と言った?
(……桐野?)
ふと、ある少年の顔が脳裏に浮かんだ。
そういえば似ている気もする。とくに、鼻から下の部分。
するとそこで、泉の予想を決定づける発言があった。
「泉ちゃんは知ってるだろう。クラスが一緒だそうじゃないか」
「たしかそうよね。うちの息子、桐野進士。わかるかしら」
「桐野君の、おかあさん」
やっぱりそうだったか。
桐野がまとう空気と、彼女の持つオーラはよく似ている。
目がすこし息子よりきついが親子だとすぐわかる。顔の上半分を隠したら下手するとどっちがどっちかわからないかもしれない。
「似てますね」
「よく言われるわー。だけどそれ言うと進士おこるから」
桐野の母親は人差し指を唇にあてた。
「それじゃあ彦さん。私はそろそろ失礼しますね」
「いつもすいません。タッパーは明日返しますから」
「いつでもいいんですよぉ。気にしないでください。それじゃまたね泉ちゃん」
ぱたぱたとサンダルを鳴らして桐野の母親は帰っていった。