キミは聞こえる
 この話題は終わっただろう、さあご飯ご飯と昼食に集中しようとして、

「ふーん、じゃあ好きな人とかは?」

 阻止された。

 箸を咥えたままの千紗だ。
 誰か助けて。私の胃袋を満足させてあげて。そんなに大きくはないから。

 声を出すのが面倒になって、泉は首だけ振って答えとした。

「んじゃさ、んじゃさ。隣のクラスの設楽(したら)ってどう思う?」
「したら、さん? ……誰、それ」

 いつになったら弁当箱と仲良くなれるのだろう。

 しかも今度こそわけのわからない質問だった。

 クラスメイトですらいまだ数名しか顔と名前が一致しないのに、他のクラスの生徒をどうして知っているだろうか。

 泉は説明を求めて佳乃を見た。

「えっ、設楽ってあのバスケ部の? あいつ代谷のこと、そーなの!?」

 驚いたように言ったのは桐野だった。

 だから設楽って誰だ。そもそも男なのか女なのかそこだけでいいからはっきりしてほしい。

「設楽くんて言うのは、バスケ部の一年代表のことだよ」

 くん付けということはどうやらそいつは男らしい。

「その代表くんがなんなの?」

 代谷のことそーなのとは、なにがそーなのか。

 最近の若者の会話というものには着いていけない部分が多い。略しすぎだ。

 現代っ子に対する理解力がいろいろと乏しい泉に響子は肩をすくめ、
 
「好きってことだよ。泉、気づいてないの?」

 そう言って自分の背後を指さした。

 示す先を目で追って、教卓に腰掛ける見慣れぬ生徒と目が合った。

 手を振られ、ぎょっとした。

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