キミは聞こえる
 慌てて視線を佳乃に戻す。

 なんだ、あいつは!

「手、振られたんだけど」

 あまりの気色悪さに思わず吐き出しそうになった。

 優雅に微笑まれるのも鳥肌ものだが、何故に手まで振る必要があるのだろう。

 ふつうやらないだろう。カップルでもあるまいに。……うう、寒気がする。

「だから好きなんだって言ったじゃん。この間の合宿で設楽が泉にアタックしてるの気づかなかった?」

 泉はふるふると首を振った。いつそんなのあった?

 まったく気づかなかった。

 それにはさすがの佳乃も呆れたらしい。

 嘘でしょ、と大仰に肩を落とす千紗・響子よりかはマシだが、若干口もとが引きつっている。

「いつ、アタックなんかされてた?」
「宝探しのときとかしょっちゅううちらのとこ来て「見つかったー?」とか訊いてたじゃん。それに二日目の勉強会で泉に質問してたし」

 宝探しのときは班から離れ、完全に意識が一人歩きをしていたためわかるはずもないが、勉強会での質問というと覚えがなくもない。

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