キミは聞こえる
 そう言ったのは桐野だった。

「好きでもないのに付き合ったって楽しくねーだろ」
「そうだぜ、やめとけ設楽は。あいつはカノジョいねぇ言いつつ常に女がいるからなぁ。代谷さんもそのうちの一人にされる可能性がある」

 さらりととんでもないことを言い添えたのは例のニキビくんである。

 泉の心が設楽に向かないようわざと悪っぽく言っているのかと思ったが、

 桐野を囲んで弁当を食べていた男子生徒がいつしか泉たちを取り囲み、そうだそうだ、と囁くようにニキビ面に同調していた。

 それらの顔が揃ってどこか妙に険しい。


 ……な、なんだこの異様な結束力は。


 みんなして泉が設楽の手に渡るのを止めようとしてくれているのか。
 だとしたら涙が出るほどありがたいが―――


 ………なんだか、怪しい。

 
 桐野の設楽を見る目がにわかに細くなる。

 日頃の陽気な彼からは想像できない、いささか厳しい眼差しに、泉は小首を傾げる。


 桐野は設楽のことが嫌いなのだろうか。

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