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眠ることが出来ず、秦利は屋上
で夜風を浴びていた。

「俺も眠れないわ」そう言って
現れたのは、凌慈。

「源丞の奴が自分から話すのは
珍しいんやで?自分の過去を。
しゃあないな……俺も吐き出し
ちゃうか…」煙をゆっくりと
吐き出し、凌慈は目を細め、遠く
を見た。


屋上から景色を見る度、胸が
痛み、下を見ることが出来ない。

高所恐怖症な訳ではなく、高い
ビルなどから下を見るのが
怖い。

幼い頃、母は凌慈の目の前で
アパートの屋上から飛び降り、
自殺した。

優しい母。最後まで笑っていた。

凌慈の頭を撫で、弱々しく笑う
と、じゃあねと呟いた。

その時の切なげな表情は今でも
忘れられない。母では無く、大人
の女性が見せた顔だった。

視界から消えた母を捜し、屋上
から下を見下ろした。

血まみれの塊があった。

幼い凌慈は声を上げることも
無く、涙を流した。

全てが客観的に映った。

救急車のサイレンも、警察の話
も、近所のおばさんから頭を
抱かれたことも。

母に対して、ごめんなさいと
呟いた自分自身も、客観的に
映った。

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