Strange
「次が、最後の曲です。」
リョクの言葉に客席から『え~』と残念さを伝える声が飛ぶ。
「この曲は、僕にとってとても大切な友達が、大切な人にあてて書いた手紙を僕が曲にしたものです。聞いてください。」
言葉に続いて流れ出したメロディーにざわついていた会場は一気に静まり返った。
優しいメロディーが耳に届く。
ふいに、ずっと空席だった翔の隣に人影が見えて、翔は視線をそちらへと移す。
視線はそのまま止まって、隣で翔に向かって微笑む女性を見つめていた。


♪君と出会えた奇跡に今はただ涙を流すことしかできないけれどいつかまた出会う事ができたとしたら本当の気持ちを伝えたい。

本当のことを言うと君は怒るかな?嘘つきな私はいつもホントはおびえてた。
いつか終わる日が来ると知りながら一緒にいる時間が増えるたび“もう少しだけ”ってあまえていたの。

あの日君からの真っ直ぐな言葉が嬉しくて頬を伝った涙、背を向け逃げた私にもあなたは真っ直ぐに向き合ってくれたよね。

いつか来る別れから逃げていたのは本当は私で、あなたから先に別れを切り出されるのが恐くて先に逃げたのも私。
もう二度と会いたいなんて言えないはずなのに、それでも会いたいと思うわがままな私の心。
ただ、もしもう一度会えるなら素直な気持ちを伝えたい。

“あなたを、愛してる”♪

翔の隣に立つ女性は、リョクの歌の最後の歌詞にあわせるように同じ言葉を口にした。
翔の瞳をじっと見つめながら。


ステージ上のリョクはさっきまで二つだった影がゆっくりと重なり合うのを見て子どものように微笑んでいた。



【END】
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