Strange
「二人に会ったあの日、歩道橋の上でアリスに会ったんだ。」
思い出すように机の一点を見つめながらリョクが話しはじめる。

「両親が半年前に事故で死んで天涯孤独になったんだ…それからどうやって歌えばいいのかわからなくなった。歌っても気持ちが入れられなくて、ただ詩を棒読みしてるみたいな感じに思えてさ。それでも仕事は次々と歌を望んだしファンのみんなも僕の歌を変わらずに聞いては応援してくれた。でもやっぱり前のようには歌えなくて、どうしていいかわからなくなって…逃げだしたんだ。…この町は昔両親と住んでた場所だったから。ここで…死のうと思った…」
机の上に置かれたリョクの手がギュッと固く握り締められる。
「歩道橋の柵に足をかけようとした時に、たまたまアリスが通りかかったんだ。それで言われたよ“死ねるものなら死んでみなさい!でも今ここであなたが死んだら明日から私あなたが死ぬ所を思い出してうなされるんだから!それで一生あなたを恨むからね!”ってさ。最後に“さぁ、死んで私に恨まれる?生きて私に感謝される?どっち?”とまで言われて死ねなくなっちゃってさ。」
なんともアリスらしいアリス中心な発言だった。
リョクも同じように感じているらしく、先ほどまでの真剣な表情が一瞬緩んだように見える。
「テレビに出てる今の姿の僕も確かに僕なんだけど、眼鏡をかけてるホントの僕はいつも自分自身ににつぶされるんじゃないかって怯えてた。でもショウタと斉藤さんの言葉で気づいたんだ。僕には歌手のRyoとして過ごす日々がたまらなく大切だったって事。支えてくれたスタッフやファンのみんなの事を思えばきっとまた歌えるって!それに、今はの僕にはショウタにアリス、藤堂さんや美砂さんだって…リョクとしての僕のまわりにも支えてくれる人がたくさんいるから…だから大丈夫だ、もう一度歌いたい、もう一度…今をしっかりと生きていかなくちゃいけないんだって…。」

【カランコロン♪】

「いゃ~、今日は遅刻しなかったよ!さすが私☆」
真面目な雰囲気をぶち壊しにした一言。
9時55分。
アリスは今日も元気いっぱいな様子だった。
翔を見つけて指定席へと足を運ぶ。リョクを見たアリスは数秒間リョクを見つめた後
「この人…ショウタの友達?」
と首をかしげた。
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