着ぐるみの恋
今度は病院にかけてみる。
どちら様ですか?
名前言うと居留守使われると思ったので…患者の振りして答えた。
田仲です。
親父が電話口に出てきた。
「はい、もしもし仲田です」
「親父?俺、修二」
「………」
相手はじっと黙っている。
どんな顔付きかは、9割想像がついた。
「親父さ、話があんだけど、一度会って」
プープープー、電話は切られた。
無理もない、修二にとっては予想通りの結果だった。
直接、病院に行くしかない。
午後の院内は、患者がちらほら、午前に比べると静かな雰囲気だった。
受付を横に修二が歩く。
誰も気付かない、仲田総合病院、院長の次男坊だとは…看護婦の中の一人でさえ、わからなかった。
院長室の前に来た。
ここまで来て…やはり躊躇する。
ドアをノックしようと、拳を作ってみたものの、その拳がドアに届かない。
なら、殺るのか、修二?殺れるのか?殺るんだな? 嫌われていいんだな、月子に?
己れを奮い起たせ、全身の力を拳に込め、ノックした。
「はい」
中から低い声がした。
この出口なき迷路……これが出口か…どうか……。