着ぐるみの恋
車内で、張り裂ける痛みに堪えながら、二人は沈黙の世界に身を置いた。
月子のマンションの前で車は止まった。
「ロシア行きって、もし決まったら、それはいつ頃から行くの?」
「…わからないよ、まだ日程は未定だよ」
「そう……」
月子は助手席に座ったまま動けない。
このまま車から出たら、もう本当に終わり、もう二度と会えなくなる……。
今、伝えるべき?
否応なしに与えられた病気が…私の心を遮っているんだと……。
心は、この魂は、修二さん、あなたしか見えてないのだと……。
修二はドアロックを解除した。
前を向いたまま、月子を見ようとはしなかった。
それは、早く車から降りてくれ、消えてくれと言ってるように……。
月子はドアを開け、車から降りた。
ドアがバタンと閉まる。
車は発車した。
車が小さくなって行く。
月子の瞳から、修二を乗せた車は消えた。
孤独と言う名の地上に一人、取り残された月子はその場に立ち尽くした。
修二さん、愛してたわ……。