着ぐるみの恋
密室に二人だけ…このまま時を止めてあげて下さい。
いっそのこと天変地異でも起こり、生を亡くしていいほど、二人の心は高ぶっているのです。
話したい事は、お互いそれぞれ、あり過ぎたのに…2階まで、たった2階に停止するまでの時間、余りにも短い時間しか二人にはなかった。
これもあれも、聞きたい、言いたい、伝えたい、側にいたい、何から話せばいいのか…わからない内に、エレベーターは止まった。
「修二さん、じゃまた…」
「店、今度さ、俺行っていいか?」
「えっ?」
閉まりかけたドアを、修二はまた開けた。
そして、月子の返事を待つ修二。
「いいわよ、一度来てほしいわ」
「近い内に必ず行くよ」
「待っているわ、修二さん」
意地悪なドアは二人を遮った。
月子は店に戻ったが、動揺を簡単に抑える事が出来なかった。
ブランデーのロックを3杯、一気に飲み干した。
接客中も、上の空。
修二さん、今、このビルの5階の何処かにいるのね。
死んではいなかった。
修二さんが、この近くで息をしてる。
これは夢なんかじゃない。
七年前の記憶が……動き始めた。