着ぐるみの恋
ある日の事、突如、原田が言った。
「妻に、離婚してくれと言われてる…」
「離婚?どうして?何で?」
「俺に…もう愛想がつきたらしい。会社も息子に継がせるから出て行ってくれと言われたよ…」
月子は胸に痛みが走った。
それは、言い様のない気持ちの悪い痛み。
「駄目よ、そんな事!お父さんが夜、家に帰らないからだわ!きっと、そう言って脅かしてるだけよ。お父さんの気持ち、確かめてるだけよ」
月子は必死になった。
「いいや、そうでもないんだ。子供も含めて、この間会議したらしいよ。皆、真剣だ…」
「で?お父さんは、どうしようと思ってるのよ? いったい?」
月子が、原田の腹を探る。
「俺は…別にそれでもいいと思ってる。今の店が駄目なら…このマンションでも売って、二人で…うどん屋でもするか?」
「う、うどん屋?お父さんと?」
「あぁ、そうだ。いいや、別にうどん屋でなくても、焼き鳥でも串カツ屋でも、二人の食いぶちがあればいいさ、何でもいいよ」
船頭はお父さん…よいしょ、よいしょ…と舟をこいでいる…愛の園に向かって……でも、私には、そこは地獄にしか見えない。