着ぐるみの恋


お母さん、もし生きてたなら、私の今の気持ち分かってくれたよね?

お母さん、私は、あなたの事…生まれて初めて今、理解出来たような気がするの。

一人の男に惚れて、尽くして尽くして、可哀想な一生だったけど、それでも、あなたは自分を生きた、幸せだったのよね。

生活力も何もなかった父だけど、お母さんから見たら、父には父だけの…誰にも負けない良いとこがあったのよね。

お母さん、惚れた男に一生を捧げ、本望だったんだよね。

昔々の思い出……。

私は父の肩車で、お兄ちゃんと三人、よく銭湯に行った。

私はまだ小さくて、世の中の事なんてなんにも分からずに…自分の父の背中だけは人と違う……カッコいい龍さんがいるんだって……。

龍さんに頬擦りしたり、キスしたり、友達に自慢してた。

石鹸をクリームみたいになるまで泡立て、体、洗ってくれたね。

今でも思い出す、クリームのついた父の優しい顔。

お兄ちゃんと三人…潜水勝負だって言って、湯船でよく潜りっこした。

死んだんじゃないかって思うくらい、長く潜ってた父。

お兄ちゃんと二人で、いつも心配したんだからね……。


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