着ぐるみの恋


月子は有明埠頭に着いた。

朝の澄んだ空気に、潮の香りが溶け込み、それが月子のベールとなった。

少し遅すぎた花嫁さん。

あれ? お相手は?

新郎がまだ到着していないようですが……。

夢見る花嫁は待ち合わせ時間より、15分も早く着いた。

計画通りに進んだわ、後は、修二さんを待つだけね。

早く会いたい、あなたに。

でも、そんなに焦らなくったって、これからずっと一緒だもんね。

長い年月が…あまりにも長い年月が流れたけれど…それもこれもどれも、今日の為に流れてきた時間。

二人で海に行った事……月子は思い出していた。

お互い、すっぽり服で身を包み、嘘で心を包み、打ち寄せる波の音を聞いていた。

あの頃が懐かしいわ。

今度は…何に包む事もなく裸のまま…お互い着ぐるみ脱いで、修二さんと愛し合える。

もうすぐ、もうすぐね。

月子の空想は、何処までも限りなく拡がって……。

空想で終わる事も知らず……。

現実は反対方向に進んでいた……。


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