着ぐるみの恋
36 揺れる魂
店の後始末は終わった。
新しい部屋も借りた。
荷物も運び終え、分譲マンションも、思っていたより高い値で売れたと、業者から連絡が入った。
振り込まれた金額、そっくりそのまま銀行から出金し、月子は原田宅へと向かった。
夕方過ぎの事…何の連絡も無しに着いた原田家は、明かりが点いていた。
インターホンを鳴らす。
「はい」
女の低い声?奥さん?
「あの…三山龍子、いえ月子です」
「………」
ガチャ!ドアホンの受話器が勢いよく置かれた音がした。
暫くしても、誰も出て来ない。
月子は再度、インターホンを押した。
「はい、何か?」
次は男の声だった。
原田の息子さん?
「あのう…お渡ししたい物があって…」
「何ですか?お袋は顔も見たくないと…」
「玄関先で結構ですから、少しだけ出て来て貰えませんか?」
暫くしたら、息子らしき男が出て来た。
「あのう…これ、原田さんに買って頂いた部屋を…売却したお金なんです」
と、月子はバッグから分厚い封筒を取り出し、その男に差し出した。
男は一瞬驚いたが、無表情、事務的に封筒を受け取った。