着ぐるみの恋
8 羨望の的
7番ボックス席は、何時しか修二の指定席となった。
その日、何事もなく修二は飲んでいた。
月子がトイレに立った。
席では、修二と絵理子が話している。
その時…カトレアで古株のベテランホステス、美咲が、呼ばれもしないのに、席にやって来た。
と、修二の横にそっと座った。
胸の谷間がやけに強調されたドレスに身を包み、甘い香りを放ちながら…… 。
美咲のワインレッドの唇が…修二の耳許に近付いていく。
妖しい…怪しい…。
「ずっと遠くから見ていたの。美咲って呼んで…ヘルプでいいから、私もたまには、お席に呼んでよ…これ…」
と、携帯番号書かれた名刺を、修二の上着ポケットに忍ばせた。
修二は無表情…冷めた目で美咲に視線を移した。
美咲が、ニッコリ…笑顔を作る。
トイレから出て来た月子……目の中に映った、修二と美咲の密着した光景が……。
足がその場に釘付けになり…ビクとも動かない。
後ろから歩いて来た客とぶつかり、我に帰った月子。
またトイレにUターンし、中から鍵を閉めた。