着ぐるみの恋
そう言えば、豊のとこでおにぎり食べた事あったな……。
具もなけりゃ海苔も巻いてない、ふりかけさえもかかってない、塩味だけのおにぎり。
そう言えば…大皿に大量の数のおにぎりが乗ってたっけ。
家でいつか、お袋に言った事があった。
おにぎり食べたいんだよ……出てきたのは、家政婦が型押し器で作った、コピー飯が三個。
俺は、それを団子みたく丸形に握り直し、箸に突き刺し、お袋の鏡台の前にディスプレーしてやった。
「修二さん、口にごはん付いてるわ」
「えっ?」
修二が月子を見た。
月子は飯粒を取った。
見詰め合った瞬間、修二の唇は月子の頬に……。
一瞬だった、シナリオにはなかったアドリブの世界……。
月子の心臓は早く波打った。
この高まりにブレーキかけなくては……。
これ以上、進んではいけないよ、月子……。
どうせ別れるなら…思い出は少ない方がいい……。
二人の間には沈黙が流れた。
二人は互いに想い合いながら…視線は海の向こう……。