小さな約束
「俺,実衣のことが好きなんだって」
どこか他人事のように言ったのは,恐らく他の人から何か言われたのだろう。案の定,智也はこう続けた。
「実衣のことを姉ちゃんに色々話したら,それは恋だ,愛しちゃってるのよ,とか言うんだ。だから俺,実衣のことが好きなんだ!」
誇らしげに言う智也の姿が気にくわなかっただけかもしれない。意地を張っただけかもしれない。
でもきっと幼いながらにも,自分の中で【実衣が好き】という想いを認識していたのだと思う。
気付いたらこう叫んでいた。
「僕も――僕も実衣ちゃんが好きだもん!」
こうして俺らは【恋】というものを認識したのだ。
そして卒園式。
「大きな木の下で――」
手を合わせる。
「ゆっくり唱える――」
ラヴィエンヌ。
「そして思い浮かべる――」
美衣ちゃんの笑顔を。