trick Or trёat!
ありえねぇ。
マジでありえねぇよ!
「…嘘だろ…、」
「だから、そんなヤツいないってさっきから言ってるじゃん。」
樹の声は耳をすり抜け
代わりに俺の目に映るのは
ガランとした、ただの空き地。
あの後、教室を飛び出した俺は真っ先に紅葉の家を訪れた。
アイツの家は学校からすぐ近くだったし、よくみんなが集まる場所としても馴じみ深くて。
なのに、そこにあるのは見慣れたオレンジの屋根じゃなく
不法投棄された冷蔵庫や、サドルのない自転車だった。
ヘナヘナと気が抜けた炭酸のように、足を投げ出して地面に座り込んだ俺は、そのまま頭を抱える。
何で、とか
どうして、とか
そんな事しか思い浮かばない。
でも、クラス名簿に紅葉の名前がなければ、教室にアイツの机すらなくて。
クラス中に聞いて回っても、誰一人として紅葉を知ってるヤツはいなかった。
そして、極めつけはケータイ。
俺のケータイのアドレスから、紅葉の名前が消えていたのだ。
まるで、紅葉だけが切り取られ、抜け落ちたみたいに。
――そう。
アイツは、紅葉は
世界から
消えてしまったのだ。