嵐のような君を愛してる
待ち合わせは定番になりつつつもある新宿。
(とはいえ、まだ2回目だけど(笑)アリスの停泊地である親友の家からも、僕の家からも便利な場所なのだ。)

今回はアリスの乗る長距離バスの都合にあわせて西口にした。

待ち合わせの場所で街を行く人々を眺めていると、雑踏の中から一際目をひく真っ黄色のスーツケースを引いた君が突如として視界に飛び込んできた。

僕をみつけて君は笑顔になる・・・。

「どこ行く?」
君は笑顔のまま問いかける。

「その辺でいいかな?」

バスの時間ギリギリまでいられるように、手近な居酒屋チェーン店に入った。


「今日なんでスーツなの?」
君がおしぼりで丁寧に指を拭きながら言う。

「企業展行ってきたんだ。留学生向けの。」
「そっか。就活かぁ・・・楽しかったなぁ。」
「楽しい??」
「だって色んな企業のウラ情報もちょっと教えて貰えるじゃない?」

そうかぁ。
今まで僕の中では『就活』=『不安なもの』という方程式しかなかったけど、『楽しい』なんて考える人もいるのか。

「いいとこあった?」
「う~ん・・・今はどこも厳しいみたい。中国人の採用は結構あるんだけど、タイ人となるとね。」

ほんとに今の日本は不況なんだよなぁ。

「今のところ採ってくれそうなとこはネジ工場くらいで、しかも半年伊豆の島で研究なんだよ・・・。」
「そ、それって島流しだよね(笑)」
「(笑)」

僕は『島流し』という言葉は知らなかったが、なんとなく君の口調から意味を推測してつられて笑っていた。

「でもBOYは工学部じゃなくて文学専攻なんでしょ?だったら活かさないともったいないよ!」
「そうなんだけどねぇ。」
「諦めずに探せばきっともっとあると思うよ。だって仕事って1日の大半携わるわけだからさ、ある程度好きなことじゃないと辛いよ~。」

そうだよね。
どこでも就職できればいいかなって思ってた自分がちょっと恥ずかしい。

よし。もうちょっとがんばるか!

「お待たせいたしました。子持ちししゃもです。」


「え?!BOYって子持ちししゃもとか食べるの?!」
「タイ人がししゃも食べたらおかしいの?!(笑)」
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